『唯幻論大全』を読んで

先日ネットで、岸田秀さんが『唯幻論大全』なる本を出したという記事を目にしまして、早速注文して入手し、本日読了しました。

 

ま、「完全書き下ろし」という本ではないので、以前からさんざん目にしていた氏の主張を再確認する、という感じで読み進めました。とはいえ、ここ数年氏の文章に触れていなかったので、なかなか新鮮な体験でもありました。

 

基本的に、データや図表を提示することなく論を進める(文献からの引用はときどきありますが)人なので、特に初めて接した10代のころは、その勢いに引き込まれたものですが、さすがにそれなりに年を重ねると、氏が議論の前提にしている事実ははたして正しいのかどうか、という疑問も湧いてきます。特に後半部、性規範について資本主義と絡めて論じている部分は、「男性が家から離れた場所で働き、女性が専業主婦として家の中にいる」というモデルが日本社会においてどの程度の期間や割合で存在したのか、データによる実証もなく話が進んだので少々違和感も感じました。

 

総じて思ったのは、「魅力的な論ではあるが、やはりこの論は氏の生きた時代や経験に深く影響された論なのだろうな」ということでした。もっとも、「そんなこと、初めから断ってるじゃないの」軽く受け流されそうではありますが。

 

『唯幻論大全』岸田秀・著

http://www.amazon.co.jp/dp/4864102090/